中小企業のセンチメント(1)
~社会が失敗を許さない~

前回の最後で触れた楽観主義ですが、実業家、とりわけ中小企業の社長が明るくならないとダメだと思います。中小企業は日本の雇用の7割くらいを提供しているので、ここの社長を明るくする、ということが非常に重要なのですが、残念なことに現時点ではうまく行ってないと言わざるを得ません。

世界銀行の調査によれば「事業のしやすさ」という点で日本が非常にランクの低い項目が2つあり、ひとつは「会社を作るのが難しい」ということ、もうひとつは「税金」なんです。

僕は、日本で会社を興すのはそんなに難しくないと思っています。自分でも作りましたし。本当の問題は違うところにあると思います。一番大きい問題は文化、そして商習慣、中でも保証についてです。株式会社でも有限会社でもそうですが、本来は有限責任です。つまりお金を入れて、失敗したらそのお金だけなくなるという仕組みです。でも日本の中小企業の場合は無限責任になってしまいます。有限責任のはずの会社がお金を借りる場合には個人保証、連帯保証が求められるから、万が一倒産したら家族がだめになるとか、自分の家がなくなるという、非常に大変な問題が起きるんです。

もう一つ、日本は社会が人にやさしいと言われていますが、僕は失敗を許さない社会であるとも思います。一回失敗したら復活できない、ということが頻繁にあります。いつも不思議に思っていることを例にあげましょう。大学生の就職活動です。卒業するときにいいところに就職しておかないと、その次にいい仕事を見つけるチャンスが劇的に下がってしまう。これはどの国にも全くない現象であって、敗者というか、失敗した人がものすごく罰されてしまう。これで大きなロスが発生します。

ビジネスについても同じことが言えるのではないか、と思います。東京でタクシーの運転手さんと会話するとバブル以降、95年とか2000年あたりに会社を興した経験のある方々が意外と多いんです。かなり厳しい世界ですよね。

世界銀行の調査の話に戻ると「あなたにビジネスチャンスが見えているか」という質問に対しても、やはり日本が極端に低いです。それと世界銀行ではなくて、グローバル・アントレプルナーシップ・モニター、GEMという組織がやっている調査ですが、ビジネスチャンスが見えているという人達に対して、「失敗する恐怖がどれくらいあるか」という質問をしたら、ここでも日本は極端に高いんです。つまり、そもそもチャンスは見えない、チャンスが見えたところでめちゃくちゃ心配、ということです。楽観主義には程遠いですね。次回は中小企業と税金の問題について書きます。

センチメントがアベノミクスの成否のカギ

僕が一番懸念しているのは来期の成長率が日銀や政府がターゲットとしている成長率より低くなった場合のリスクです。この時、センチメント、つまり国民感情にすごく悪い影響を与えてしまいますから、消費税増税によって暗くなっているところに追い打ちをかけることになり、個人も企業もお金を使わなくなります。そうすると来年で早くもアベノミクスがパーになるかもしれません。

前回の最後で触れた特区ですが、カジノとか、医療とか、様々な考え方がありますね。経済効果も期待できると思います。しかし、特区が来期の成長に貢献するかというと、恐らく貢献しないでしょう。いまは車に例えるとエンジンをスタートするところですが、かかりそうになったエンジンがまた止まってしまうと、それ以降はもうかからなくなるかもしれません。だから、もともと僕は消費税を来年上げるのはリスクが高すぎる、と思っていました。

それと、国民の利益というか権利を守るという文脈で言うと、実際の政治にはいろいろな利害関係があって、いろいろなプレッシャーグループというか、圧力団体があって、そういう方々の、いまの権利とか一番の関心の分野を守ると絶対経済成長がないだろうと思います。

だから、非民主主義的な政策を考えてみることも必要です。経済同友会のような組織、つまりビジネスを代表している組織の関心分野というか、優先順位をそのまま受け止めて政策を行うべきかもしれません。いや、かもしれないというより、間違いなくそうだと思います。つまり国民ではなくビジネス、言い換えると企業。一方的な政策というのは残念ながら必要です。そうでないと成長しません。

この先の重要なキーワードに「楽観主義」というのがあると思います。つまり、気持ちが明るくなるかどうか、というのが非常に大きなポイントになります。国民全体がいま起きていることに対して、これから良くなる、自分の生活が良くなる、と考えられないようだと、冒頭に触れたようにアベノミクスがパーになってしまうかもしれません。ここはすごく重要なところです。次回は、中小企業の役割と中小企業のセンチメントということについて話してみます。

企業が投資したくなるような政策を実現するのは容易ではない

消費税の増税分3%を金額にするとおよそ5兆円になります。また、この5兆円のをオフセットする、相殺するような意味合いでの経済対策5兆円という話もあります。その中には震災復興事業を含む公共事業や民間投資の後押しなどが挙げられています。

この先、目玉になるのが法人税のカットでしょう。ですが、政府内でも政府外でも懸念されているのは、単に法人税を引き下げるだけで短期的な経済効果が充分得られるかどうかということです。日本の企業は保守的で、株主の圧力から比較的遮断されているという特徴があるので、儲かったお金をあまり使わない、という危険性があります。

ですから、どうやって企業に新しい機械を買わせるか、GDPの項目でもある在庫を増やさせるか、そして一番インパクトが大きいことでもある、どうやって従業員の給料を上げさせるか、といったことが課題になります。

いまは非常にサプライチェーンが短くなって、スピードもレスポンスも早いので、在庫を増やす、ということは難しいでしょう。また、設備投資を増やすためには企業が確実にリターン、言い換えると需要の増加を見込めないといけません。

セクターによって違いがありますが、国内で平均的に需要が増加する、というのは想像しにくいですね。特に消費税が上がる年度に全体的な需要が上がるというのは考えにくい!従って輸出企業がリードしなくてはいけないし、恐らくそうなるでしょうが、もう一つリスクがあります。世界的に「現地生産」というのが進んでいて、例えば中国で作ってどこかで売るんじゃなくて、中国で作って中国で売る、ということが増えています。そうすると国内で機械を買うというのはあったとしてもさほど大きな額にならない可能性があります。

需要が伸びていて、法人税が安いところでものを作って売る、というのが論理的に考えてベストです。従って、日本に製造が戻るとか、日本国内設備投資を大幅に増やすというのは、残念なことに考えにくいと思います。

その辺のところは政府も解っていて、設備投資減税などの目的減税や戦略特区、経済特区についても積極的に検討されていますが、いいことだとは思います。でも僕は、これらの政策が物足りない内容だと非常に危ないのではないか、特に来期の成長には貢献できないのではないか、という懸念があります。その辺については次回のブログで話したいと思います。

オリンピックとTPPと楽観主義がアベノミクスを成功に導く

アベノミクスの「三本目の矢」である「成長戦略」ですが、最も重要なポイントであるにもかかわらず、国内外から疑いをもたれてしまうところでもあります。日本はこれまで、「さんざん期待させたあげくにがっかりさせる」ということを繰り返してきたので、みんな慎重に受け止めざるをえない、というのも当然でしょう。

でも僕は東京オリンピックの招致が決まってから、とても楽観的になりました。このイベントを開催することになった、というのは象徴的な意味を持っています。政府や経済界等の、日本を引っ張っていく有力者が、オリンピックの開催決定によって今の成長路線、改革路線から脱線しにくくなった、という意味でしょう。

最初みんなに本格的な改革の約束をして、その後で保守派が出てきて、妥協につぐ妥協で利害関係を調整していくうちに、改革の中身が薄められてしまう。これまでの「がっかり」のパターンでした。しかし、今回は影で暗躍する保守派・反改革派が「影」からなかなか出にくくなります。オリンピックという照明が結構眩しいし、しかも7年続くので。これが非常にいいところだと思います。

もう一つ、メディアでも世論でもそんなにポジティブに受け止められていませんが、TPPもオリンピックと同じくらい重要だと思います。TPPで旧来の保護主義的なルールを変えることになるので、ダイナミックにならざるを得ないという状態になります。オリンピックとTPP、僕はこの2つについてすごくポジティブに見ています。そして、長期的にはインバウンドの観光、ロボット革命、それから日本のブランディングが成長シナリオを生むんじゃないか、と思っています。

ただ、短期的には来期の経済成長率がものすごく重要!2014年度には日本は約束している成長率か、それ以上の成長率が絶対に必要、ということです。具体的には、来年の消費税アップはもう決まっていますから、短期的な消費税アップのネガティブ効果、つまり消費を冷やすという効果をオフセットできるような成長の数字にならないとまずい、ということでしょう。

僕はそれについても「慎重ながら楽観的」です。本当に来年消費税を上げる必要があったのか、いまだに疑問に思いますが、それでも何とかなるような気がします。ただし、僕だけじゃなく、日本国民全体が楽観的にならないとまずいです。なぜなら、成長を生み出すのは最終的に楽観主義、楽観的な態度に違いありません。みなさま、明るくなりましょう!

卵のケースが日本家屋を救う!

僕は92年に初めて日本に来たんですが、いままでに「日本語お上手ですね」って2万回くらい言われています。そしてその後に「お国はどちらですか?」と聞かれるので、エストニアがどこにあるのかを説明すると「寒いですね」と言われるんですよ。ほぼ毎回このパターンです!

僕からみた「ここがヘンだよニッポン」のトップグループに位置するのが、「日本の家って、冬はめちゃくちゃ寒い!」ということです。日本では北海道以外の地域で壁に断熱材が使われていないそうです。エストニアも含めヨーロッパの家は暖かいんです。家の中で普通にTシャツだけで歩くのが当たり前すぎるくらい。暖かい部屋着みたいなものもあまり売ってないと思います。

それで、折りにふれ「なぜ日本の家って寒いんですか?」って質問してみるんですが、「いやいやいや、これは日本の文化だ」という感じの答えが返ってきます。なんで寒いのが文化なんでしょう?住宅メーカーに質問してみたんですが、そこで言われたのは「コストが掛かります。みんな寒いのが当たり前(日本の文化ですね!)だと思っていて、それを求めていないのにコストアップしても売れなくなるだけなんでやりません。」という回答でした。この説明で半分納得、でも半分不満です。ちなみに寒い家というのは、夏はめちゃくちゃ暑いんですね。基本的に断熱していませんから。

先日ある住宅メーカーの社長に会いました。これから大きくなろうとしている中堅クラスの会社です。それで社長に「うちは全部壁に断熱材使っています」と言われ、感動してしまいました。最近は一部のメーカー、特に木造の注文住宅を作っているところに増えているようです。実は断熱材を壁に使うと「腐る」という、湿気の多い日本特有の問題があるんです。だから日本の家って伝統的に非常に風通しがいいんです。腐らないために、湿気にやられないために。

ではなぜその会社さんが断熱材を使うことができるのかというと、卵のケースのような形状のもの、通気スペーサーを断熱材と一緒に貼るんですね。そうすると風通しが良くなって問題を完璧に解決できるようです。やっぱり僕と同じように、おかしいと思っている人がいたんです。

これから日本の家はますます暖かくなるでしょう。一度暖かい家に住んだ人は寒い家には二度と戻りたくなくなるはずです。だから消費者も暖かい家をメーカーに求めるようになります。そうするとさらに普及して、20年も経つと、「卵のケースのようなもの」が日本の文化だと言われるようになるかな?