続・目標ROE8%とクールビズは似ている?

今回は、前回お伝えしたように、最近よく耳にする目標ROE8%とクールビズの関係についてお話します。

日本の夏はとにかく暑いですから「スーツなんか着ずに、チノパンとポロシャツ(ゲーム開発とかその他クールなギョーカイの人たちは短パンとTシャツ)にしようじゃないか!」という選択をすることもできたはずです。

実際、新しめの業界の会社では、そういう事もありましたが、一般的な空気として、チノパン&ポロシャツだとちょっとやり過ぎかも、とみられたんですね。画一的にみんな変わるから、少しカジュアルになるだけでも、変化としては大きいんです。もし顧客がスーツを着ているときに、自分がポロシャツだったとしたら、それは失礼、とみなされてしまいますよね。どこの会社でもそれぞれに顧客がいますから、みんな同じことになります。

似たように、平均よりもはるかに高いROEを目標にすると、生意気なやつだと見られてしまいます。マネーゲームに屈したやつ、ともとられます。出る杭は打たれる、というやつですかね。

前回の記事の会話例で出てきた「経営陣」は、決してバカじゃありません。長年の間、収益向上の要求を聞き続けてきましたし、株価が高いのはよいことだ、という考えにも異論をはさみません。経営陣にとっては、株主を喜ばせるという行動について特別なモチベーションはないですが、ROEを高めることはよいことだ、という考えには賛同しています。とは言え、目標値が高すぎるとか、目標達成が早すぎる、というのは、好ましくないのかも知れませんね。他社よりも少しだけいい、というレベルの居心地がいいのです。「良すぎる、早すぎる」という目標だと浮いてしまい、変わってる、とか日本的ではない、とまで後ろ指をさされかねませんから。こういったことから、目標ROE8%となったのかな、と僕は思っていますし、実際大きく外れてはいないでしょうね。

さて、最後にちょっとだけ季節の話題に戻りましょうか。秋に特有のものといえば、渡り鳥がありますが外国人投資家は、日本の金融市場の渡り鳥のようなものですね。彼らは証券会社主催の投資家カンファレンスに出るために、9月になると東京に群れでやってきます。ほとんどは30代か40代の背の高い男性で、クールビズをせず、スーツ着てネクタイして、次々と目まぐるしくホテルの会議室を変えてワンオンワンミーティングをこなしているところなんか、まさに渡り鳥です。

今年の外国人投資家渡り鳥たちの興味はひとつ、「アベノミクスの効果はどうなのか?」でしょうかね。若干失望感が漂っていた感じもありますが…

目標ROE8%はクールビズと似ている?

涼しくなりましたね、ようやく秋が来たという感じでしょうか。蒸し暑さの中でスーツを着ることもなくなり、ホッとしているところですが、今回はこの「蒸し暑さの中でスーツを着る」という日本の独特な文化的慣習について感じたことをお話しします。

スーツを着用するという慣習は、日本という国がどう変化してきたか、そして一方ではどれほど変化していないかを表す、わかりやすい例なんですが、意外と見過ごされがちなんです。洋服を着るという風習は、そもそも1870年代に政府主導で導入されました。それ以来、日本の伝統的な衣装は、きちんとした着物からパジャマのように快適な甚平に至るまで、片隅のほうに追いやられたんです。

こうした大きな転換で、皮肉にも、長年の伝統だったものが、全く新しいものに取って代わられました。日本でのビジネススーツというのは、さすがにボリビアの山高帽とは違って年月とともに多少の変化はあるものの、日本のサラリーマンのある種のユニフォームとなりました。国の気候にまるで合っていないことは残念ですが、大体6月から9月くらいまで背広を着て汗ダクになることを、やむを得ない慣習として受け入れてきたんです。

ところが、クールビズ導入で変化が起きたんですね。クールビズはオカミによって熱心に奨励され、国民に広く行きわたって、反対意見が強く出ることもなければ、真剣にその意義が論じられることもなく、導入されたんです。

ペラペラの生地で裏地もない夏物のスーツを購入し、ノーネクタイで白シャツを着て、背広は着たり持ち運んだりする新しいスタイルのクールビズは、2006年に導入されると瞬く間に、ビジネスシーンでの常識的な装いとなったんですね。

クールビズ自体はよいことですし、日本の会社がどういう風に態度を変えてきているか、投資家が理解するのによい材料でもあります。というのも、日本企業の経営陣から投資家がよく聞かされる、よく意味のわからない目標ROE8%、と同じようなものなんです。

次のような対話が、よくあるんじゃないでしょうか。

海外投資家(別名ガイジン):あなたのところのROEは低すぎますよ、6%しかないじゃないですか?

経営陣:存じております。実際、重要な懸案事項だと認識しております。事態を慎重に検討し、業務の見直しを図った結果、我々は、目標ROEを8%に設定し、3年後には達成したいと考えております。

ガイジン:世界を見渡せば、自社株をぜ~んぶ買うくらい、大量に自社株買いをするとこも多くありますし、ROEだってずっと高いですよ。あなたの最大のライバル会社のA社なんか、ROEが18%もありますよ!

経営陣:欧米企業の多くがROEを高くしていることは、私たちだって知ってます。私たちは、そうした状況をきちんと注視していますが、あなたがたにも、文化の違いというものを理解してもらいたいと思ってます。日本では、モノゴトは外国と同じようにはいかないのですよ。それに、日本の上場企業の平均ROEが7.3%であるところ、私たちはその上を目指しているということもわかってください。

ガイジン:しかしですね、業界によって話は違うのですよ!どうして8%に設定するのですか!すべての業界や企業を同じモノサシで測ることはできませんよ!自分のバランスシートをごらんになってください。冬場のフジヤマの雪よりも多く、現金が積みあがっているじゃないですか!

[経営陣の内なる声]:(もういいから、帰れ!)

経営陣(丁重に):貴重なご意見をありがとうございます。私たちは、株主様の利益を改善させるべく、長期的な目標をさらに見直していくよう今後とも努めていきます。

ガイジンとこんな対話をした日本企業も多いのではないでしょうかね。さて、この例がどんな具合にクールビズと似ているというのでしょうか?よく耳にする目標ROE8%というのは、クールビズのようなものなのですが、これについては次回のブログでお話ししますね。

「まさか!」の備えに甘くないかな、日本の人たち

最近、多くのメディアで、火砕流到達リスクのある原発、についての報道を見ました。「1万5千年に1回しかないだろうから、心配しなくても大丈夫じゃないの?」という考え方で、ちょっと驚きました。その1回が来年かも知れないのに・・。

一方、話は変わりますが、バングラデシュに大きな投資をして、同国の海岸沿いに日本企業の工業団地を造成するという話もあって、日本の人々は、大災害に対するリスクの見積もりが甘いのではないかな、とすごく気になりました。

ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)という著者が書いた「文明崩壊(原題:collapse)」という本があります。お勧めしたい、素晴らしい本ですが、「歴史のなかでいろいろな文明社会が自己破壊を起こした」という内容です。その基本的なメカニズムは「人間が環境を破壊して、やがて誰も住めなくなる」ということです。イースター島が有名ですし、グリーンランドもそうです。そして本の中では、ユニークな例として、日本人が取り上げられています。比較的破壊されやすい自然環境の中、資源も限られていたが、もう1,000年以上も環境再生、環境保護を行ってきている国民、として紹介されています。

日本人にはそういう文化があるにもかかわらず、自然環境に対するリスク認識の甘いときがあるように思われます。原発の安全性というのは大きな例で、以前の記事に書いたように、メリットとデメリットを長期的に計算したうえで動いているのか、というのが疑問に思えるときがあります。

バングラデシュは人口が1億5千万人以上いるうえ、極めて貧しい国です。インドでも問題になっていますが、「貧しい民主主義」というのは国の安定性や経済成長を適切に機能させないケースがあるんです。

さらにはバングラデシュは非常に海抜が低い国です。もし温暖化が本当に進んだら、水害を被る、極端な場合は国全体が沈むかもしれない、というシナリオもありえます。もちろんアメリカでも多くの地域で同じ問題はあるし、オランダも海抜の低い国です。でもアメリカもオランダもリッチな国だから、防災対策は施されていますが、バングラデシュにはありません。防災対策がない中でのリスクは、バングラデシュも日本も全く制御出来ないでしょう。

温暖化がどういう結末になるのかは確かにわかりません。しかし、もし日本の資金で日本企業が全部インフラを作るのであれば、これから20~30年先の災害リスクまで考える必要があります。もう何年か前になり、記憶は薄れているかも知れませんが、タイの洪水で、日本企業がどのくらいやられたのか思い出すことですね。なぜああいう低いところに、洪水になりやすいところに工場を作ったのか、と。

ところが、今回のバングラデシュの投資です。またしても洪水になりやすいところで作る、と。人口が多くて貧しいから、様々な問題に直面すると大混乱になるでしょう。経済成長を続け、政治的な安定性を続けるというのは、想定外のことがひとたび起こると結構難しいのでは、と思います。そういうリスクの高い地域で日本の企業が物流や生産をするというのなら、災害リスクがきちんと計算に入っているか知りたいな、と感じます。