マイナス金利がもたらす問題

今回は、マイナス金利がもたらす影響について考えてみます。シンプルに言うと、金利が安ければ、企業は安く資金を調達できるため、利益をあげやすくなります。

不動産を例に考えてみましょう。例えばビルを買い、そのビルを貸出します。自分が5%の金利を払い、10%の利回りが家賃で得られるとします。そうすると、自分には5%の利益が残るということになります。もちろん、競合が出てくるため、5%の金利支払いに対し、6%~7%の家賃、サヤが1~2%しかないということは生じますし、完全競争の状況になれば、限界利益が0になるという事態にもなります。不動産の限界利益は、租税負担、物件の値上がり期待などにも影響されるので、例としてはややこしいものを出してしまいましたが、要は収入が支出を上回れば利益になるので、金利が安ければ支出が減り、利益をあげやすくなります。

今、日銀はお金を大量に供給し、金利が低くなっています。経済学的に、お金の供給が増えれば、お金を必要とする人たちが経済活動をしやすくなるので、経済は活性化します。ただ、これまで金利5%で資金を調達していた人たちが、マイナス金利の導入で、金利1%で調達できるようになると、事業を続けるためには2%の収入でも成り立つようになります。よって、プレイヤーの数は増えますが、低金利のなかでも競争原理が働き、限界利益が0に近づくまで、下がっていきます。

超低金利の状況下では、事業のハードルが低くなるので、過当競争が生じやすく、たくさんの人がたくさん働いているけれでも、あまり幸せな人がいない、となってしまわないかと、心配してしまいます。ROIつまり投入資金に対するリターンが非常に低く、マージンが1%しかないとしても、サイズを大きくすることで量を稼げます。大きな投資のできる人、資金調達しやすい人たちは、何とか望みの利益額を確保できます。ただ、最終的な利ザヤが限界に近づいていると、労働者の賃金があがらず、需要の活性化に結び付かないし、たくさん働いているわりには、収入が上がらず、幸福度も上がりません。つまり、マイナス金利でお金をいくら出しても、限界利益の高いビジネスが創生されてこないかぎり、供給過多による限界利益の低下からデフレをつくっている状態に陥る一方なのではないでしょうか。借り入れできれば、お店を出すのは簡単になるけど、高くても客がくる差別化された魅力もしくは多店舗展開による絶対額の確保がないと、すぐに競争相手も出てくるし、忙しい割には儲けが少なくて、これならやめてしまおうという人も多いのではないか、という感じです。

これには出口が必要、それは奇跡的な大幅生産増がひとつです。人口が減少する中、経済にまともな影響を与えるくらいの移民が入らないかぎり、輸出増しかないでしょう。国内の需要に依存していては、上述の競争の原理から、薄い利幅の分だけ、十分な利益額を得ることが難しくなります。

AIのようなイノベーションが起きるか、人口増のような需要増が生じてこないと、金融政策では、みんなが喜ぶ顔がなかなか見れないんじゃないか、と心配しています。