以前このブログでも書きましたが、先日、日本は英国からインスピレーションを受けて日本版スチュワードシップ・コードの導入を決めました。これは大切な一歩ですが、UK版と比べると日本語版スチュワードシップ・コードは少しモノ足りないようです。UK版との違いを下のテーブルにまとめてみましたので順に見ていきましょう。
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スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。 | スチュワードシップ責任をどのように果たすかについての方針を公に開示すべきである。 | 同じ。 |
スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。 | スチュワードシップに関連する利益相反の管理について、堅固な方針を策定して公表すべきである。 | 同じ。 |
投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を適格人把握すべきである。 | 投資先企業をモニタリングすべきである。 |
UK版は簡潔。 日本語版は持続的成長を強調。 |
投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。 | スチュワードシップ活動を、どのようなときに、どのような方法を用いて強めていくのかにつき、明確なガイドラインを持つべきである。 | はっきりとした違いが見受けられます。日本版では調和を探ることを明確にうたい、その定義は自由に解釈できます。対照的にUK版はより積極的かつ具体的で「スチュワードシップ活動を、どのようなときに、どのような方法を用いて強めていくのかにつき、明確なガイドラインを持つべきである」としています。 |
投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。 | 適切な場合には、他の投資家と協調して行動すべきである。 | 劇的に異なります。UK版では基本的に、投資家は適切な場合には、他の投資家と協調して行動すべきである、としています。一方、日本版では、そのような言い回しを避け、投資家には投資先企業を深く理解することを要求しています。非現実的ではないものの、曖昧なコードとなっており、対立があった場合、企業側が適切に理解されていないと主張する余地を残しています。 |
議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。 | 議決権の行使と行使結果公表について、明確な方針を持つべきである。 | 言い回しは異なるものの、大きな違いはありません。このコードも日本版では長くなっていますが、これは「持続的成長」を強調しているためです。 |
議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。 | スチュワードシップ活動および議決権行使活動について、委託者に対して定期的に報告すべきである。 | 言い回しは異なるものの、ほぼ同じです。 |
このようにUK版と比較すると日本版スチュワードシップ・コードにはそれほど切れがない印象がありますね。日本版だと、投資家の権利が侵害された際、機関投資家が活動を強めることや、強調することを奨励していません。代わりに深い理解と適切な判断が求められます。また、日本版には読み手によって認識が異なる表現があるので、定義の整理などの課題が残っているように見えますね。これも日本っぽいですけど、大切な一歩を踏み出したので見守っていきたいと思います。