日本国債とマイナス金利について

先日の国債の話と関連しますが、日本の財政リスクについて整理をしてみます。日本には財政リスクがあると良く言われますが、僕はイタリア、ギリシアのようにはならないと思っています。なぜなら、日本では、日本国民が全ての日本国債を持っているからです。

日本国債を直接引き受けているのは民間銀行、保険会社、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ですが、保険会社も銀行も、もちろんGPIFも最終的には日本国民個人のお金を運用しているのです。ですから国債の格付けが落ちて、取り付け騒ぎが発生するという、リスクは小さいでしょう。ただ問題は高齢化です。

人は年齢を重ねるとともに、老後のためのお金を貯蓄します。最も貯蓄率が高いのが40歳のときで、生涯の中で所得が最も高く、自分の未来に対して貯蓄しなければならない時期です。これは20年前も今も変わりません。実は日本における貯蓄率は下がってきています。70歳~90歳という高齢まで貯蓄を切り崩して生活しているため、日本国民全体で貯蓄が減り始めているのが問題です。これによって何が起きるかというと、発行済の国債(負債)のサイズを縮小できなければ、新規国債を発行する際、上述の日本国民の預金が不足します。そうするとミスマッチが発生し、企業に例えると有利子負債、国の場合では国債額を減らすか、ガイジンから借りるかしかなくなり、最終的に極めて不安定化して、ハイパーインフレになるかもしれません。そうなる前に恐らく、定年は70歳または75歳になっているでしょう。

一番大きな問題は、人口減少と貯蓄の切り崩しにより、日本国債の山をサポートする人数×貯蓄額が縮小することです。国債はもちろん年金などにも使われていますが、一番は金利を払うために使われています。

今は、マイナス金利で新しく発行した国債の金利が低いため、国としての金利支払いの負担が減るという現象が起きているのです。つまり、国債の発行者から見ると、もともと金利を沢山支払う必要がある重い資金調達を、非常に軽いものに入れ替えているのです。全体的な負担が増えないように見えていますが、国債の発行額をどんどん増やしていっても、ハイパーインフレにならないようコントロールできるのでしょうか。

マイナス金利で、国債の金利支払いを減らせたとしても、国債をサポートする母体の縮小に対して有効な解決策がなければ、財政リスクの低減は難しい問題だと思います。

三菱東京UFJ銀行のプライマリー・ディーラー返上について

三菱東京UFJ銀行がプライマリー・ディーラー(国債市場特別参加者)の資格を返上した、というニュースを興味深く思いました。報道された内容は「国債の消化が難しくなり、日銀の政策に影響を与える」という内容です。

僕にとって、このニュースは違う意味で重要なものに見えました。国債の消化が難しいということよりも、この返上は日銀に対し、いい加減にしなさい、という銀行業界からの反抗に見えます。日銀と民間金融機関が二人三脚で日本の金融を支えてきましたが、最近の黒田総裁の一連の発言は、「銀行のための金融政策ではなく、日本全体のために政策を行っている」という趣旨でした。つまり、銀行の役に立つとか、銀行が儲かるために政策をするのではなく、日本経済を支えるために金融政策を行っている、とのことです。今回のニュースは、正にこの政策に対する銀行業界としての初めての公の反発・反論です。勝手な想像ですが、業界の親分による仲間を代表する行為、と思われます。

日銀は元々非常に保守的な組織だと言われています。クロダノミックスは、ある意味で今までの保守的なスタンスと大きく乖離したことで、総裁に対して、銀行界だけでなく、日銀関係者の間にまで、不満が高まっていたものと推測します。MUFJは事業上の合理性を訴えていますが、日本では、ああいうとき普通、裏で打ち合わせをして物事を進めるという文化でしょうから、今回、公に返上したという動きは、非常に象徴的な出来事だと思いました。

今回の「アベノミクスドラマ」の最後の舞台は、「アベノミクスの失敗」ではなく、「黒田総裁の失敗」に責任を帰する方向に行くのではないかと懸念しています。つまり、無責任な金融政策で大変なことが起きた、ということ、彼がマイナス金利を導入しなければ、もっといい経済政策ができていたはずだ、というシナリオで話が展開しないかと心配しています。

今回の返上は、黒田総裁に責任を負わせて終わりにする、という流れに直結するまでには至らないと思いますが、明らかに彼の立場は難しくなってきています。もともと独立機関として動いているはずの日銀が、今回、以前より明らかに、政府と共に政策を行う方針を採っています。これは黒田総裁の大きなチャレンジというか、ある意味で勇気ある行為です。ただ、従来の日銀と比較すると、悪く言えば、いろんな原則を台無しにしたとも言えます。これに対して銀行業界にも複雑な思いがあるので、全体的な状況が危うくなるのは間違いなかろうと思います。