ビジネススクールのINSEADに入った時、もともと金融関係の知識がほとんど無かった僕には、一番ためになって、迫力あるコンセプトと感じたのは「現在価値」でした。
現在価値というのは、適切に使えば会社の価値、お金の価値、ビジネスの価値がわかるので、ロジカルで面白いものです。このコンセプトのもとにあるのが、「今日の1万円と1年後の1万円のどちらが欲しいか」という話です。合理的な人であれば、大半は「今の1万円がいい」となるかと思います。今もらわず、1年待って1万円をもらうということに対して何らかのご褒美がなければ、1年後の1万円を選ぶ人は少ない。そのご褒美が金利です。
マイナス金利の今。経済学者的・計量経済学的なアプローチで、ECB(ヨーロッパ中央銀行)に続き、日銀もマイナス金利の導入に踏み切りました。世の中がホントにおかしくなるのではないかと懸念するべきでしょう。マイナス金利になると、今の1万円でなく、1年後の1万円の方がいいという理屈になります。つまり、貯金したら罰金が課せられます。すごく不思議なコンセプトなのです。現在価値が逆さまになります。もちろん、意図としては、「そんなことなら今お金を使おうぜ」という気持ちを企業や消費者にさせ、経済を刺激し、決定的なデフレ脱却をさせるのが狙いです。理論としては分かりますが、個人は消費するのではなく将来を心配して消費を抑え、企業は競争している限り、製品を過剰供給し、資本に対するリターンを下げる、という結果にならないでしょうか。
現時点ではまだ、国の金利(公定歩合や日本国債など)がマイナスになる一方、企業ローンや個人ローンなどは(リスクがある分)、マイナスにはなりませんが、限りなくゼロに近づきます。ただ元本を返す能力は大して変わらないため、ゼロ金利・マイナス金利でも、お金を借りられる人・企業の数がそのまま推移することでしょう。つまり、お金を借りる必要がない人が、より安く借りられるようになりますが、もともと要らないでしょう! では、お金をジャブジャブに供給にしても経済効果があるのでしょうか。上述した理論のような効果があるすればリターンの低下となり、効果がないとすれば、なんで導入するの?という疑問が浮上します。
その答えはECBのドラギー総裁が出しました。2016年3月10日の記者会見では、「効果があるかどうかについては議論できるが、やらなければもっと早く、もっと酷くなったに違いない」といった趣旨の発言をしました。(記者会見の完全放送バージョンをご覧ください、議事録は編集されています。)つまり、政治的にはヨーロッパも日本もあまり動けないので、中央銀行が肩代わりをするということですが、金融政策だけでは経済が良くならないと思います。片翼だけで飛行機を離陸させるのと一緒でしょう。飛べませんよね…