技術的フロンティアとインスティテューション
~中国が真の巨大経済になる日~

先日INSEADのAlumniフォーラムに行き、同校の教授らのプレゼンを聴きました。中国を中心とした経済成長全体の話題でした。

中国は世界第二位の経済規模になっていて、このペースで伸びていくと、あと20年以内にアメリカを越えることになりそうです。でも面白いのは、2012年のデータでは一人あたりのGDPが6千ドルくらいで、それに対して日本は4万6千ドル。つまり8分の1です。一人あたりで見ると中国はまだこんなに低いんです。もっと言うと3年か4年前、中国はソ連が破壊する前の一人あたりGDPをやっと越えたところです。つまり、かなり貧乏でした。そういう意味でも近年の成長というのは奇跡的と言えるでしょう。

話の中は「技術的フロンティア」という言葉が出ました。経済が発展する過程では、他国の技術やノウハウを借りるか真似をするなどの行為によって成長することがアンダーザフロンティア。それは出来なくなって、自分でイノベーションし、新しいものを作るというのがアットフロンティアです。

国の経済はフロンティアに接触すると、どんな国でもどんな時代でも、なぜか平均1.8%成長していくというデータがあるそうです。中国の経済もこれからやっぱりこの「技術的なフロンティア」に触れるのであれば、イノベーションしなければならないので、ここからは結構大変でしょう。

ただ、多分中国はそのレベルに近づいてはいると思います。まだフロンティアまでは行っていませんが、これからは当然のこととして成長率が低下していくことになります。もうひとつ、先進国など豊かな国は一人あたりGDPが5万ドル近いのですが、ここまで行くのに中国に必要なのは、「インスティテューション」という言葉、日本語で言うと「機関」です。きちんとした法律があって、この法律が守られているかどうかチェックできて、裁判所などのシステムが機能していて、契約が絶対に守られる、こういう仕組みがあれば、中国は成長し続けるでしょうし、それが出来なければ成長が止まるリスクがあるということで、インスティテューションの確立をしないと、楽に成長できる時期は終わったのではないか、というのが教授の言葉でした。

とはいえ、中国のいままでの成長を見ると政策的にそんなに大きな間違いが指摘されていないので、徐々にいろいろな問題を解決し、インスティテューションを確立し、それからイノベーションをし始めることでしょう。そうであれば、いつか本当に凄い経済大国になりえます。例えば、一人あたりGDPが韓国と同等になれば、中国経済は後5倍に膨らみます。将来的に、日本と隣に米国2倍の経済が生まれるということは、いろんな意味で無視できないですね。

中小企業のセンチメント(2)
~税制が成長マインドを阻害している~

日本は、人が本当のお金持ちになって、お金持ちで居続ける、そして自分の次の世代にも自分が作った資産を渡すということが絶対にできないような税金システムになっています。

僕が繰り返しブログに書いている法人税カットというのは、中小企業にとってはそんなに大きな話ではないです。日本の中小企業経営者で成功している人達は、「いくつかの会社を持っていて、みんな小さくて、利益がちょっとだけ出ています」というのが、僕は一番多いのではないかと思います。

なぜなら、大きな利益を一社で出すメリットが限られているからです。法人税がかかるだけでなく配当に対しても税金がかかるし、配当しなければしないで留保金課税というのがあります。他にも費用計上などいくつかルールがあって、基本的には「小さく、利益があまり出ない」というのがベストなんです。

前回も書きましたが、そもそも起業したい人が少ない、失敗するのが怖い、経済が成長していないのでチャンスが少ない、でもちょっと成功したら、「ちょっとの成功からかなりの成功に移る」ときにものすごくお金を取られるから、平均的にこういう姿になります。

この問題について世論として全く議論がされていないのは、中小企業のオーナー達が、そもそもこれを問題だと思っていないからです。ずっとそうだったから。それに日本人特有の仕方ないっていう考え方もあって議論にならないんです。それと多くの人達はサラリーマンであって、この問題に全くあてはまらない、悩まされてないので、世論が形成されない、というのもあります。

大きな企業は小さな企業よりも安定します。大きな企業が逆風に対してサバイバルできる、ということだけでなく、企業が大きくなるとプロのマネジメント、専門家を雇えるということが大きいと思います。そうするとマネジメントの質が上がります。小さいままだと、例えば数社小さい会社を持ったところで、オーナー以外は優秀な人が経営に携わる確率が低いでしょう。そうすると、経済全体においてマネジメントスキルの成長が限られます。(ちなみに、大企業間のマネジメント専門家があんまり移動しないのも問題です。)結果としてもたらされるのは、人を安定して雇えないということと社員に高い給料を払えないということです。ある意味で悪循環が出来てしまいます。その悪循環に影響されているのは日本の労働人口の7割を占める中小企業の社員です。ここはみなさん気づいていない大きな問題だと思います。