最近、多くのメディアで、火砕流到達リスクのある原発、についての報道を見ました。「1万5千年に1回しかないだろうから、心配しなくても大丈夫じゃないの?」という考え方で、ちょっと驚きました。その1回が来年かも知れないのに・・。
一方、話は変わりますが、バングラデシュに大きな投資をして、同国の海岸沿いに日本企業の工業団地を造成するという話もあって、日本の人々は、大災害に対するリスクの見積もりが甘いのではないかな、とすごく気になりました。
ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)という著者が書いた「文明崩壊(原題:collapse)」という本があります。お勧めしたい、素晴らしい本ですが、「歴史のなかでいろいろな文明社会が自己破壊を起こした」という内容です。その基本的なメカニズムは「人間が環境を破壊して、やがて誰も住めなくなる」ということです。イースター島が有名ですし、グリーンランドもそうです。そして本の中では、ユニークな例として、日本人が取り上げられています。比較的破壊されやすい自然環境の中、資源も限られていたが、もう1,000年以上も環境再生、環境保護を行ってきている国民、として紹介されています。
日本人にはそういう文化があるにもかかわらず、自然環境に対するリスク認識の甘いときがあるように思われます。原発の安全性というのは大きな例で、以前の記事に書いたように、メリットとデメリットを長期的に計算したうえで動いているのか、というのが疑問に思えるときがあります。
バングラデシュは人口が1億5千万人以上いるうえ、極めて貧しい国です。インドでも問題になっていますが、「貧しい民主主義」というのは国の安定性や経済成長を適切に機能させないケースがあるんです。
さらにはバングラデシュは非常に海抜が低い国です。もし温暖化が本当に進んだら、水害を被る、極端な場合は国全体が沈むかもしれない、というシナリオもありえます。もちろんアメリカでも多くの地域で同じ問題はあるし、オランダも海抜の低い国です。でもアメリカもオランダもリッチな国だから、防災対策は施されていますが、バングラデシュにはありません。防災対策がない中でのリスクは、バングラデシュも日本も全く制御出来ないでしょう。
温暖化がどういう結末になるのかは確かにわかりません。しかし、もし日本の資金で日本企業が全部インフラを作るのであれば、これから20~30年先の災害リスクまで考える必要があります。もう何年か前になり、記憶は薄れているかも知れませんが、タイの洪水で、日本企業がどのくらいやられたのか思い出すことですね。なぜああいう低いところに、洪水になりやすいところに工場を作ったのか、と。
ところが、今回のバングラデシュの投資です。またしても洪水になりやすいところで作る、と。人口が多くて貧しいから、様々な問題に直面すると大混乱になるでしょう。経済成長を続け、政治的な安定性を続けるというのは、想定外のことがひとたび起こると結構難しいのでは、と思います。そういうリスクの高い地域で日本の企業が物流や生産をするというのなら、災害リスクがきちんと計算に入っているか知りたいな、と感じます。