千駄木から見た日本経済と市場 vol.2

「日本政府はお金を使い過ぎたり、税を取り過ぎてはいない」

シェアードリサーチ代表のOlegです。

前回は、日本経済が直面している問題についての事実を整理しました。今回は、1990年まで健全だった日本の財政事情の変遷についてお話します。

日本は1990年まで、財政問題はなく、債務の支払いは税収で十分まかなえていました。しかし、その後状況が変わりました。

税収が減り始めても、政府は何事もなかったかのように以前と同じ額の支出を続けました。このような事が何故起きたかということについて、私見としては、現行の選挙制度のもとで政権を維持するために、国民の望む現状維持のサービスが最低限必要だとの単純な選挙対策(ポピュリズム政策)があったのだろうと考えます。

この財政赤字(支出額の継続)が当時、どのくらい大きな問題に発展していくかについての認識が不足していたのだと思います。
この未知数の問題に対して、「でも大丈夫だよ」という想いは今でも続き、この問題への対応を鈍らせています。

結果として、歳出が歳入を大幅に上回るため、政府はお金を借りることで埋め合わせるしかなくなりました。ここで重要なのは、ほとんどの政治家が現状の支出額を継続させることで選挙民との公約を守ったのです。

 歳入歳出の比較

(出典:MOF)

 財務省発表の、1990年と2011年の歳入歳出を比較すると明らかなのは、税収が約17兆円減って約41兆円になる一方、歳出は約50兆円から倍増の100兆円を超えていることです。
歳出の中でも年金、医療、福祉で構成される社会保障費が増え続けていますね。

社会保障の給付の推移

(出典:MOF)

上表は財務省が発表している「社会保障費」の1960年から遡って2025年までの推移を示しています。2025年には総合支出は145兆円まで伸び、このまま国民との約束を守るなら23.7%が社会保障費に充てられる試算になっています。2025年まであと12年です。もしあなたがこの「成長シナリオ」に同意出来ないとしたら、社会保障負担率は大きく上昇します。

人口ピラミッドの変化

(出典:MOF)

僕は「日本が無責任な政策を取っている」とか「日本は愚かだ」とは思っていません。
日本は多くの事を成し遂げ、成功した国です。代表例として、国民が長生き出来るようになったこと、同時に、多くの先進国と同様に子供を作らなくなったことが挙げられます。(独り暮らしって実はとっても楽しいのかもね……)
この2つから日本が得たものは、図表「人口ピラミッド」に見られる人口構成の変化でした。「人口ピラミッド」の形がつぼ型の上の方ばかりが膨らみ、つぼを逆さまにしたような構成図になってきていますね。

繰り返しになりますが、これは「成功」から生まれた問題です。政治家が真面目に約束(公約)を守って充実した医療制度を完成させたことや、人々が豊かになって楽しみが増えたことで少子化が進んだ結果なのです。

高齢化社会は、現代医療・経済的繁栄・平和によって成し遂げられました。高齢化社会が問題だからといって、映画「楢山節考」の中で描かれていたような老人殺戮を解決策にしようなどと考える人は皆無でしょう。他の先進国でも日本と同様にますます高齢者が増えていきます。一方出生率の増加については、子育て支援の様な助成金と、日本人の価値観の変化によって20~25年後には効果が出たとしても、短期的な効果は期待できません。

日本がお金を使い過ぎている、支出が多すぎるという批判はまったく見当違いです。
2008年の財務省の統計によれば、社会保障費はGDPの20.5%を占め、米国の15.5%よりは大きいものの主要な欧州各国に比べると低い水準です。ちなみにデンマーク、フランス、スウェーデンはGDPの28~30%を社会保障費支出に充てています。日本は、教育や科学などの非社会保険支出がGDPの16.7%で、OECD加盟国の中では一番低い水準です。(ちなみに英国は24%です。)

結論は単純です。他の先進国と比較すると、日本の財政支出はそれほど多くないことです。よく言われている政治家の選挙目当てで行われるバラマキや、無駄な道路整備などといった公共事業の支出があったとしても所詮程度が知れていますね。

同様に税金についても誤解されています。日本では個人の税負担はそれほど高くありません。日本国民の多くは日本の所得税は高いと思っていますが、財務省のデータによれば、大半の先進国よりも低く抑えられています。納税者の8割は、5~10%の所得税率区分に該当し、わずかな税金しか収めていないわけです。

僕は、税金は経済成長にとって良いものではない、という信念を持っています。
しかしながら、論理的に見て、日本政府はお金を使い過ぎてはいないし、税を取り過ぎているわけではありません。

今回は基本的なデータを示しながらいろんな角度から僕なりの日本の現状についての分析をしましたが、ご理解いただけたでしょうか。

次回は、今回の日本の現状分析から考えられる問題点を挙げていきます。

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