三菱東京UFJ銀行のプライマリー・ディーラー返上について

三菱東京UFJ銀行がプライマリー・ディーラー(国債市場特別参加者)の資格を返上した、というニュースを興味深く思いました。報道された内容は「国債の消化が難しくなり、日銀の政策に影響を与える」という内容です。

僕にとって、このニュースは違う意味で重要なものに見えました。国債の消化が難しいということよりも、この返上は日銀に対し、いい加減にしなさい、という銀行業界からの反抗に見えます。日銀と民間金融機関が二人三脚で日本の金融を支えてきましたが、最近の黒田総裁の一連の発言は、「銀行のための金融政策ではなく、日本全体のために政策を行っている」という趣旨でした。つまり、銀行の役に立つとか、銀行が儲かるために政策をするのではなく、日本経済を支えるために金融政策を行っている、とのことです。今回のニュースは、正にこの政策に対する銀行業界としての初めての公の反発・反論です。勝手な想像ですが、業界の親分による仲間を代表する行為、と思われます。

日銀は元々非常に保守的な組織だと言われています。クロダノミックスは、ある意味で今までの保守的なスタンスと大きく乖離したことで、総裁に対して、銀行界だけでなく、日銀関係者の間にまで、不満が高まっていたものと推測します。MUFJは事業上の合理性を訴えていますが、日本では、ああいうとき普通、裏で打ち合わせをして物事を進めるという文化でしょうから、今回、公に返上したという動きは、非常に象徴的な出来事だと思いました。

今回の「アベノミクスドラマ」の最後の舞台は、「アベノミクスの失敗」ではなく、「黒田総裁の失敗」に責任を帰する方向に行くのではないかと懸念しています。つまり、無責任な金融政策で大変なことが起きた、ということ、彼がマイナス金利を導入しなければ、もっといい経済政策ができていたはずだ、というシナリオで話が展開しないかと心配しています。

今回の返上は、黒田総裁に責任を負わせて終わりにする、という流れに直結するまでには至らないと思いますが、明らかに彼の立場は難しくなってきています。もともと独立機関として動いているはずの日銀が、今回、以前より明らかに、政府と共に政策を行う方針を採っています。これは黒田総裁の大きなチャレンジというか、ある意味で勇気ある行為です。ただ、従来の日銀と比較すると、悪く言えば、いろんな原則を台無しにしたとも言えます。これに対して銀行業界にも複雑な思いがあるので、全体的な状況が危うくなるのは間違いなかろうと思います。

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